2010年4月15日
パンとサーカス
詩人ユウェナリスが古代ローマ社会の世相を揶揄して詩篇中で使用した表現。権力者から無償で与えられる「パン(=食糧)」と「サーカス(=娯楽)」によって、ローマ市民が政治的盲目に置かれていることを指摘した。パンと見世物ともいう。
なお、「サーカス」は意訳である。ラテン語にもcircus(キルクス)という語があるが、それとは別の語が使われている。circensesの読みはキルケンセス。古代ローマの競馬場であり、戦車競走が行なわれた。ここからこの言葉では拡大して剣闘士試合などを含めた娯楽一般の意味で用いられている。ちなみに、オットリーノ・レスピーギの『ローマの祭』第1曲『チルチェンセス』はこの「キルケンセス」に由来する。
「panem et circenses」という定型句で定着しているが、これはいずれも対格形である(circusの複数対格形ならcircos(キルコス))。この日本語訳としては「パンとサーカスを」のほうが近い。実際、下記のユウェナリスの原文では「パンとサーカス(見世物)を求める」という表現になっている。
地中海世界を支配したローマ帝国は、広大な属州を従えていた。それらの属州から搾取した莫大な富はローマに集積し、ローマ市民は労働から解放されていた。そして、権力者は市民を政治的無関心の状態にとどめるため、「パンとサーカス」を市民に無償で提供した。現在の社会福祉政策をイメージさせるが、あくまでも食料の配給は市民の権利ではなく為政者による恩寵として理解されていた。また食料の配布は公の場で行われ、受給者は受け取りの際、大衆の視線に晒されるというリスクを負わされた。この配給の仕組みによって無限の受給対象者の拡大を防ぐことが出来た。
食糧に関しては、穀物の無償配給が行われていたうえ、大土地所有者や政治家が、大衆の支持を獲得するためにしばしば食糧の配布を行っていた。皇帝の中にも、処刑した富裕市民の没収財産を広く分配したネロ帝や、文字通り金貨をばら撒いたカリグラ帝の例がある。
食糧に困らなくなったローマ市民は、次に娯楽を求めた。これに対して、権力者はキルクス(競馬場)、アンフィテアトルム(円形闘技場)、スタディウム(競技場)などを用意し、毎日のように競技や剣闘士試合といった見世物を開催することで市民に娯楽を提供した。こうした娯楽の提供は当時の民衆からは支配者たるものの当然の責務と考えられるようになり、これをエヴェルジェティズムと呼ぶ。
パンとサーカスは社会的堕落の象徴として後世しばしば話題にされ、ローマ帝国の没落の一因とされることもある。また、「パンとサーカス」に没頭して働くことを放棄した者(これらの多くは土地を所有しない無産階級で proletari プロレタリーと呼ばれた、プロレタリアートの語源)と、富を求めて働く者と貧富の差が拡大したことも、ローマ社会に歪みをもたらすことになった。
『ウィキペディア(Wikipedia)』引用
ユウェナリスの詩はどれもとてもユニークです。
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